年の瀬なので振り返りもかねて今年読んだものでも紹介してみたい。 (草稿を書いたのは年末だけど、ぼんやりしてるうちに年が明けてしまった!)
といっても森田は今年は他人に勧められるほど良い読み物との出会いはなかった。 世が不作なわけではなく、パンデミックのせいで可処分時間や心の余裕がなかった。 なので他の人のおすすめに従って失われた一年をちょっとでも取り戻したい下心がある。
それでもブックマークなどを発掘したら少しはものを読んでいた(あるいは audiobook で聴いていた)ので、 その範囲で面白かったものを紹介したい。
まず書籍 3 冊。
Remote: Office Not Required
Rails の開発者 DHH がつくったウェブ企業 Basecamp (当時は 37signals) がリモートワークについて書いた本。2013 年出版だが、 パンデミックの今年読むと趣深い。いいこと言ってる。7 年の月日を経てテクノロジーの問題はだいたい解決した感があるけれど、 文化的には企業間の差は大きいように思う。この本は動きの鈍い大企業に先んじてリモート化を進め差をつけろと謳う。 自分は差をつけられる側だと思うと複雑な心境。
リモート勤務、企業の個体差だけでなく我々従業員の個人差も大きいと思う。 たとえば長い通勤と引き換えに広い家を選んだ人はリモートが嬉しいだろうし、 通勤を縮めるために狭い家、高い家賃を選んだ自分のような人に嬉しさは薄い。 パンデミックはさておくと自由度の高い独身者はリモートワークの柔軟性を目一杯活かせる一方、 自分のように妻子があったり、更に子が就学していたりすると、 学校という時間的・地理的自由ゼロの活動に縛られてリモートがもたらすはずの生活の柔軟性は生かせない。
Basecamp 書籍は読むたびに我が身とくらべしょんぼりするが、そのしょんぼりが顕著な一冊だった。リモート欲を高めたい人にはおすすめ。
Facebook: The Inside Story
Steven Levy による Facebook 読み物。 In the Plex や The Everything Store が好きだった人にはおすすめだし、それだけでなくゼロ年代のウェブの盛り上がりを生きてきた自分と同世代のひと(おっさん)も楽しく読めると思う。 今は色々言われている Facebook だけど、「ウェブでクールなサービスを出してゲットリッチ」というその世代の夢の頂点なのもまた事実なので。
電話機の OS を開発していた(が途中でやめた)話など、それなりに目新しいインサイダーストーリーも多い。
Google BigQuery: The Definitive Guide: Data Warehousing, Analytics, and Machine Learning at Scale
自分は仕事でよく BigQuery (の祖先の Dremel) の SQL を書いているが、いかんせん SQL 素人すぎていつも辛い。ちょっと付け焼き刃でなんとかしたいと思っても、世の SQL 入門書は OLTP 系の用途に偏っていて分析/OLAP 向けの入門に良いやつがない。しかも BigQuery/Dremel の SQL はネストしたデータがバンバンでてくるなど特殊な面も多い。助けてくれ・・・とおもってこの本を眺めたら、そういう「SQL 素人が BigQuery でやっつけ仕事をする」のに必要な SQL がちょうどよく紹介されていて救われた。ユーザ分析とかしたいけど SQL わからん・・・と腰が重いモバイル開発者におすすめ。
運用の話とかものってたけど、それらは読んでない。
つぎ、論文二本。
JavaScript: The First 20 Years
当事者による JS の歴史。 Podcast で紹介した ので内容は割愛するけれど、無駄な JS トリビアが凝縮されており面白い。 特に役には立たないが、JS 好きな人は読めば間違いなく満足すると思う。
Slow Software
なんか最近のソフトウェア遅いよね?なんでなの?というのを様々な文献を紹介しつつウォークスルーする論文ようなブログ記事のような文章。 ハードウェア、ソフトウェア(単一デバイス)のアーキテクチャから分散システムとしての性質までを早足で駆け抜ける。 文章自体に新規性はないけど話題が幅広いので、リンクをたどれば誰でも一つくらいは興味深いものを見つけられるのではないかな。
さいごにブログを二本。
xi-editor retrospective | Raph Levien’s blog
Rust で書かれた野心的なテキストエディタ Xi Editor の野心の成否を作者が振り返る。 経歴を見ればわかるとおり、この作者はテキスト編集プログラムの超専門家。そんな専門家が野心をぶちこんでコケた結果を振り返る文章なんて、なかなか読めない。仕事だったら色々差し障るだろうけれど、オープンソースの趣味活動(というと語弊があるが)の結末なのでそういう遠慮がない。良い。
A simple way to get more value from metrics
最近のインターネットでいちばんかっこいい(森田評)プログラマの一人である Dan Luu が、Twitter に入社して早々 SQL をちょいちょいと書きながらインフラの性能問題を突き止める話。かっこいい。自分の仕事で SQL ばかり書いていてうんざりしがちだけれど (この話はブログにも書きました), こういうスタープログラマが SQL してるのをみて気分を高めている。
といったところ。最近 e-ink tablet を買って読書が捗ってる karino2 なんかないですか。