自宅勤務になっても食生活には正直たいした変化はないなと思う。ふつうに自炊をしている(夫婦では自分のほうが料理を多くするほうなので、今もわたしがよく料理している)。昼食は追加要素だしかったるいけど、適当にこなしている。たまにデリバリーも頼んでいる。間食類は……まぁ食べてるけど、会社にいたときよりは減った気がする。会社にいると無尽蔵にストックがあるからよくない(責任転嫁)。なお間食をたべるときは適当に既製品のスナックが多いが、たまにクッキーとか焼いたりとかもしている。
飲料でいえば、お茶とかを飲んでいたりするが、それすらだんだん面倒になってきてたまに白湯を飲んでたりしている。白湯はけっこういける。もちろんコーヒーはよく飲んでいるけれど、どちらかといえば、淹れる手続きも楽しんで休憩時間にしている系の飲み物になってるので、そんなに頻度は高くない。それから、これは妻の妊娠が契機だったのだが、さいきんはデカフェがメインになってる。デカフェのコーヒーは飲んでみたらとても美味しいものが多くて、これで別によかったことがわかった。といっても理由が理由なので、カフェインを本気で排除したいというほどでもない。適当にやっている。
それ以外だとなにかあるかねえ……そういえばたまにサワードウを焼くようになった。
1年ちょっと前くらい、パンデミックでみんな自宅にこもるようになって、日本では「蘇」なるものが流行っていたころ、アメリカではパン作りが人気になっていた。スーパーとかでは小麦粉が売り切れるくらいの人気。時間もあってヒマなのでパンでも作ってみるか、となったようだ。おんなじころにパンを焼いてみたりしていた。やったことがあればわかるけど、パンは生地の発酵(おもに放置)に時間がかかるけど、手を加える時間はそんなに多くなくて、うまく焼けたらまあまあうまい。あとアメリカの家のキッチンにはたいていオーブンがついているから気軽に試せる。流行したこともわかる。
そのなかでもエクストリームなのがサワードウ。ふつうのパンはイースト(酵母)を買ってきて生地に使うが、サワードウはイーストをつかわない。自然酵母と小麦粉と水から「スターター」を自作して、これを使う。自然酵母っていうとかっこいいけど、ようするにそのへんの空気中に漂ってるもののことだ(最初にだけりんごなどの果物の皮を添加し、その表面の酵母を転用する派もある)。スターターを作るのはじゃっかん面倒だが、作業自体は単純で、小麦粉(全粒粉がよい、ライ麦粉もいれるとよい、など無数のtipsがある)と水を同量ビンに入れ、放置する。1日1回、(追加で増えていくと収拾がつかないので)一部を残して捨て、そこに飼料として小麦粉と水を追加してよく混ぜる。7-10日ぐらい続けたらだいたい完成。いったんできたスターターはいったんできたスターターは定期的に餌として小麦粉と水を与える必要はあるが、それさえ維持できれば半永久的にもつと言われている。
サワードウは小麦粉と水、スターター、少量の塩から生地を作る。スターターはふつうのイーストより発酵の速度が遅く、すごい時間がかかる(朝9時にこね始めて焼くのは夕方とか夜ぐらい。そもそもスターターをアクティブにするために前夜から餌をあげたりする)。とはいえ大半の時間はほっとくだけ。たまにこねて、数時間様子を見て、みたいな。サワードウにはいろんなノウハウやら謎のおまじないやらが大量にあり、youtubeなどにも動画がたくさんあって味わい深い。自分はある日思い立ってTartine Breadの本を買ってからは、その手法をずっと踏襲している。このためにキャストアイアンの鍋まで買った(最初に鍋のなかに生地を入れて焼くことで蒸気を維持するという手法があるのだ)。
サワードウはある種の育成ゲームといった趣があると思っている。スターターを育て、キープし、たまにパンを焼く。パンを焼くときも、いい感じに育ってくれよーみたいに考えながら生地をこねている。少し楽しい。うまくできれば美味しいところもいい。毎回毎回、売ってるやつみたいにうまくいくわけじゃないが、失敗といってもあんまり膨らまなかったなーというぐらいで、食べられないほどの大失敗ということはほぼない。
ところでサワードウ自作には副産物もある。スターターには定期的に餌をやるわけだけど、そのまま全量に餌をあげると際限なく増えてしまうので、適当に不要分は捨てることになる。が、ただ捨てるのは忍びないので、ほかの料理に転用したりする。クッキー生地にしたり、ホットケーキ生地に混ぜたり。そういうのも、好きな人は好きかもしれない。
難点についても書いておくと、スターターはあまりにも長期間放置すると死んでしまうので、長期旅行があると困ったりするようだ。あとどうでもいいんだけど、パン食があんまり自分の生活に根付いておらず、パンを焼いたがいいが、あんまり食べる機会がなく、気づいたら歯がかけそうなぐらい固くなっていたりカビが生えてたり、といったことがありがち。
ただコーヒーを淹れるのもそうだけど、どちらかといえばその行為自体を娯楽としてやっている面もあったりするので、まあそれでいいんじゃないか、という気がしている。
というわけで何の話だっけ? サワードウ作るの楽しいですよという話でした。
余談:そういえば、元ツイッター社員の小説家、ロビン・スローンという人の書いた『ロイスと歌うパンの種』という小説があって、サンフランシスコのテック企業で働いてゾンビのような生活をしていた主人公が、ふとしたきっかけでサワードウを焼くようになって人生が一変するというような話なのだが、これは今読むとまた別な意味で面白いのかもしれない。